スポーツ選手が良いトレーニングをするためには、自身あるいは選手の体力や運動能力を把握し、課題を明確にすることが重要なのは言うまでもありません。この体力や運動能力を把握するために様々な方法が用いられています。今回は、選手の基礎的な体力や運動能力を知るための「測定」方法について取り上げます。

測定とは:能力を評価することを目的に、
テストという手段を用いてデータを収集することである。

・日本トレーニング指導者協会,トレーニング指導者テキスト,実践編,4章トレーニング効果の測定と評価,ベースボール・マガジン社

基礎的な体力・運動能力について

文部科学省では、「体力・運動能力を測定するテストの構成」として、運動能力の領域を、「スポーツ技能」、「基礎的運動能力」、「基礎的運動要因」、「身体の構造と諸器官の機能」の4つの領域に分け構成しています。そして、それぞれの領域に対して各種テストが実施されます。

体力測定
体力・運動能力を測定するテストの構成
※ 文部科学省 「新体力テスト」のよりよい活用のためにより

基礎的運動能力、基礎的運動要因

基礎的な運動能力の評価は、基礎的運動能力を測定する「運動能力テスト」と、基礎的運動要因を測定する「体力診断テスト」の2つの領域についてテストし、収集したデータを基準となるデータと比較することにより、より妥当な目標値の設定が可能になります。各競技スポーツにおいて高い技術を発揮できるようにするためにも、こういった基準となる評価の方法を利用し、さらに後述する各競技特性を考慮した「スポーツ技能」の評価結果との関係性をみていく必要があります。
※ 詳しくは、文部科学省 トップ>スポーツ>子どもの体力向上>全国体力・運動能力、運動習慣等調査を参照

スポーツ技能

前述したように、身体を動かすために必要な基礎となる運動能力を元に、各競技に必要とされる能力を評価します。この評価する方法には、競技特性が含まれるためテスト方法が一律ではありませんが、サッカーを例に、各競技で実施されている評価方法をご紹介します。

・垂直跳びテスト/ジャンプ能力
・カウンタームーブメントジャンプテスト(予備動作有り)/ジャンプ能力
 実際のフィールドにおける助走しておこなうジャンプに近い測定値を測定する
・10〜50mスプリントテスト/ランニングスピード能力・
 前方への重心移動能力を測定する
・YOYOテスト/間欠性持久力
 動きの中で休息が含まれるような運動時の持久力を測定する
・12分間走(クーパーテスト)/持久力
 エアロビクス運動における最大酸素摂取量を予測する
・イリノイアジリティテスト/敏捷性
 球技系のスポーツにおけるスタート、停止、方向転換などを含む
 身体のコントロール能力を測定する
・ドリブルスプリントテスト/ボールコントロール能力
 速く走ると同時にボールも速く移動させるサッカーに必要な能力を測定する

このように測定の方法は、基礎的な部分から競技特性を踏まえたものまで数多く存在します。指導者や選手は、自身の競技パフォーマンスを理解し、更に向上させるために何をしなければならないのか、より具体的に課題を持って取り組まなければなりません。
また、どんなに様々なデータを収集できても、正しく評価が出来ないのではそれはただの数字になってしまいます。目的に応じて必要なデータを収集することが重要であり、まずは自身が評価の出来る方法を利用することをおすすめします。

体力測定の歴史

現在、多くの学校で最も身近に実施されている体力テストと言えば「新体力テスト」ですが、この体力テストが始まった時代は以外と早く明治時代まで遡ります。近代教育の導入と平行し「健康診断」の一環として、「身体検査」の名称で体力テストを文部省がおこなうようになりました。利用目的は時代背景によって異なっており、戦前(大正から昭和初期)には、徴兵検査の一環として実施(文部省ではなく厚生省が実施)されていました。戦後では、食糧事情の悪化に伴う発達の遅れを調査する目的でも行われたようです。

東京オリンピックの開催(昭和39年)をきっかけに、日本国民の体育やスポーツへの関心が高まり、当時の文部省は、国民の体力増進策の一つとして体力に関する情報収集をおこなうようになりました。昭和39年から平成9年まで多くの学校で実施されてきた体力テストは「スポーツテスト」と呼ばれ、「スポーツをおこなう際の基礎的体力を評価する」という目的や、「学校において自分自身の運動能力の現状を知り、運動をおこなうことの必要性を理解させる」という目的で実施されてきました。現在、これまでのスポーツテストを全面的に見直し、国民の体位の変化、スポーツ医・科学の進歩、高齢化の進展等を踏まえ、体力要素が重複する項目を整理し、対象年齢を拡大することを目的として、新しい科学的根拠に基づいて「新体力テスト」が作られ、平成10年より導入されました。


引用・参考文献

・文部科学省 全国体力・運動能力、運動習慣等調査,平成23年度子どもの体力向上のための取り組みハンドブック,第4章「新体力テスト」のよりよい活用のために(1/2),2体力・運動能力を測定するテストの構成,(1)体力・運動能力を測る実技テスト,ホームページ
・NSCA決定版,ストレングストレーニング&コンディショニング,第Ⅱ部テストと評価,有限会社ブックハウス・エイチディ,1999年
・日本トレーニング指導者協会,トレーニング指導者テキスト,実践編,4章トレーニング効果の測定と評価,ベースボール・マガジン社
・(社)日本エアロビックフィットネス協会,健康運動指導者のためのフィットネス基礎理論(改訂版),402体力テストの目的と種類