日が落ちるのが早くなり、短い練習時間の中でいかに効果的なトレーニングを行うのか試行錯誤している方も多いのではないでしょうか。
短い時間の中で効果的なトレーニングを行い、充実した冬期を過ごすためには、トレーニングの「量」だけではなく、「質」を高める必要があります。今回は、SAQトレーニングにおける「アジリティ」に着目し、トレーニングの質を高めるために必要な「身体をコントロールする能力」について、いくつかトレーニングを紹介します。

・S=Speed(スピード)
 重心移動の速さ
・A=Agility(アジリティ)
 運動時に身体をコントロールする能力
・Q=Quickness(クイックネス)
 刺激に反応して速く動き出す能力

アジリティとは

「アジリティ」と一口に言っても、その解釈やトレーニング方法は一つではなく、研究者や指導者によって様々な説明がなされています。
SAQトレーニングではアジリティを「運動時に身体をコントロールする能力」と定義しています。一般的にアジリティは「敏捷性」と訳され、動作の素早さや巧みさに関する能力を指します。実際のスポーツ動作では、方向転換やターンの局面で求められる能力です。アジリティの構成要素は複雑で、アジリティ能力が高く要求される局面では、筋パワーだけではなくバランス能力やコーディネーション能力など身体の操作を担う体力要素が必要になります。

アジリティを構成する要素
・バランス能力
 身体の様々なセンサー(視覚や聴覚、皮膚感覚など)で得た情報を基に姿勢や体の位置を制御する能力
・筋パワー
 大きな力を瞬間的に、素早く発揮する能力
・方向転換テクニック
 スポーツ傷害を誘発する動作を改善し、方向転換時における「減速→方向転換→加速」をスムーズに行うための能力
・コーディネーション能力
 運動を操作・調整し、運動の「巧みさ」や「器用さ」を司る能力

アジリティトレーニング実践

アジリティ能力を高めるためには、バランストレーニングやコーディネーショントレーニングなど、姿勢を保持したり、身体をイメージ通りに動かすトレーニングから行い、ラダートレーニングやマーカーコーンを使った方向転換のトレーニング、そして鬼ごっこやミラードリルなど、ランダムな動きをするトレーニングへと進めていきます。

1.バランストレーニング

バランス能力は大きく、静的バランスと動的バランスに分けられます。定義には諸説ありますが、立位や片足立ちなど、その場での姿勢を保持する機能を「静的バランス」、重心の移動を伴う動作を達成する機能を「動的バランス」と定義されることが多いようです。バランス能力はアジリティを向上させるためにも欠かせない能力の一つであり、様々な姿勢や環境下でトレーニングを行うことが望ましいと言えます。

バランスマスター(バランススクワット)
バランスマスターの上でスクワットを行います。姿勢が崩れないようにバランスを取りながら行います。徐々に深くしてみましょう。

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アジリティディスク(片足スクワット)
ディスクの上に片足で立ち、バランスを崩さないように片足でスクワットを行います。徐々に深くしてみましょう。

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ミニハードル(ラテラルステップ&バランス)
斜め前方へ移動しながら、方向転換時にバランスを崩さないように行います。次の方向に素早く動けるように姿勢を意識して行いましょう。

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プログラムアジリティとランダムアジリティ

運動技能には、あらかじめ動きが決まっている状況、予測可能な環境において発揮される「クローズドスキル」と、常に変化する状況で、予測できない環境において発揮される「オープンスキル」があります。アジリティ能力はクローズドスキルのみでなく、オープンスキルでも必要になります。
プログラムアジリティとは、クローズドスキルのトレーニングであり、ランダムアジリティとは、オープンスキルのトレーニングです。

・クローズドスキル
 あらかじめ方向転換のパターン(進む距離や方向転換の角度など)が決まっている予測可能な環境で発揮される運動技能。(陸上競技、ゴルフ、水泳など)
 →プログラムアジリティのトレーニングを行う
・オープンスキル
 常に変化する状況、予測できない環境において発揮される運動技能。素早く正確な判断と方向転換を要求される。(球技、ラケットスポーツ、格闘技など)
 →ランダムアジリティのトレーニングを行う

プログラムアジリティでは、あらかじめ決まった動きの中でスムーズな方向転換に必要な「減速→方向転換→加速」の3つのスキルを強化します。
ランダムアジリティでは、プログラムアジリティで身につけたスキルを、状況の変化に応じて素早く発揮する一連の流れをトレーニングする必要があります。
スポーツの多くは予測できない環境下でのオープンスキルが求められるため、アジリティトレーニングは、クローズドスキルからオープンスキルへとレベルアップしていくことが重要です。

2.プログラムアジリティのトレーニング

2点間ドリル
前方へダッシュし、後方へはバックランで移動します。速いスピードから減速して、方向転換時にはバランスを崩さないように意識しましょう。目線を下げないことがポイントです。
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スクエアドリル
4カ所にコーンを置き、前方へはダッシュ、横方向はサイドステップ、後方へはバックランで移動します。常に前方を向くようにし、90度の方向転換をスムーズに行うための正確な動作を意識しましょう。
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3.ランダムアジリティのトレーニング

ミラードリル(サイドステップ)
二人一組になり、片方(A)の動きをもう片方(B)が追いかけるように動きます。両者ともサイドステップで左右に移動します。
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ミラードリル(ダッシュ・バックラン)
ミラードリルの動きを前方はダッシュ、後方はバックランで行います。
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スクエアドリル
スクエアドリルの動きを指示者の指示に反応して右回りから左回りに切り替えるドリルです。各コーナーに1人ずつ入って、2〜4人同時にできるトレーニングなので、鬼ごっことしても使えます。
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アジリティトレーニングは、それぞれの競技特性に応じて様々に変化させることが可能です。プログラムアジリティのトレーニングも、方向転換までの距離や方向転換の角度などをコートの大きさやポジションによって変化させたり、ボールを使いながら行ったりすることで、より競技に結びつきやすくなります。
シーズンに向けて基礎体力を高めるこの時期に、アジリティトレーニングで身体のコントロール能力を高めてより充実したトレーニングを行ってみてはいかがでしょうか。また、冬の寒い時期はしっかりと準備運動(プリパレーションタイム)で身体を温め、怪我のないようにトレーニングを行いましょう。