いよいよ夏休みが目前に迫ってきました。長期の休みでは、時間的な余裕もでき、普段は放課後の短い時間でしか練習ができない部活動でも、充実した活動ができるのではないでしょうか。
その一方で、夏は気温や湿度が高く、熱中症が発生する危険性が大きくなるため、長時間のトレーニングには注意が必要です。
計画的なトレーニングのもと、競技力向上と健康管理のバランスを取りながら、安全かつ充実したトレーニングを実施しましょう。

長期休みの位置づけを明確にする

ピリオダイゼーションの手法を用いてトレーニング計画を立てる時に中心となるのが、準備期・試合前期・試合期・移行期の4つのシーズンです。(ディスパッチVol.89 2014年9月号参照)
年間計画の中で、夏期のトレーニングがどのシーズンに位置づけられるかによってトレーニング内容や強度、体調面への配慮も変わります。
多くのチームの場合、夏期は「準備期(鍛練期)」に位置づけられ、体力面の強化を中心にメニューを組むことが多いことでしょう。
また、休み明け後に大事な試合がある場合は、「試合前期」から「試合期」に位置づけられ、戦術面の練習が主体となり、技術練習とともに疲労を試合期に持ち込まないよう、回復の期間を考慮したトレーニング計画が必要です。年間計画をもう一度見直し、目的にあったトレーニング計画を立てましょう。トレーニング計画は、選手一人一人の能力やチームの目標によって異なります。部活動の場合、個人ごとに練習メニューを作るのは難しいため、学年別やレベル別にグループ分けをし、量や強度を調節する工夫も必要になります。

トレーニング計画の具体例

夏期を「準備期」と位置づけた場合のトレーニング計画例を紹介します。

シチュエーション:5月の県大会後に新チームに移行し、中期目標である11月の地区大会に向けたトレーニングを計画する。7月〜9月を準備期にあて、夏の期間は基礎体力強化・競技の土台作りに励む。
シーズン 目的
7月 準備期 【準備期前半】
体力テストを実施し、個々の目標を明確にする
自体重のトレーニングを中心に、筋力やバランス、柔軟性などの基礎体力を強化する
暑さに慣れる
8月 【準備期中盤】
SAQトレーニングを導入し、スピード能力の基礎を高める
トレーニングの強度を徐々に高める
合宿などを行い、集中的に体力を強化する
9月 【準備期後半】
体力を高い水準に維持し、競技特性やポジションを意識した動きのトレーニングを行う
ボールやラケットなど、スポーツで使う道具も取り入れながらトレーニングを行う
体力測定を行い、トレーニングの成果を確認する
10月 試合前期 準備期で培った体力をベースに技術・戦術練習を行う
練習試合などを取り入れて試合の勘を取り戻す
疲労が蓄積しないよう、ケアやコンディショニングを意識して行う
11月 試合期 戦術練習を主に行う
疲労が蓄積しないよう、短時間で質の高い練習を行う
体力を維持するためにも適度にフィジカルトレーニングを行う

夏場のトレーニングの注意点

1. 暑熱順化のための期間を設ける
暑熱環境下では身体にかかる負荷が大きく、熱を上手に放出できなければパフォーマンスが低下してしまいます。(ディスパッチVol.86 2014年6月号参照)統計的にも、暑熱順化の期間を設けている運動部は少なく、急激な気温上昇で身体が暑さに慣れていない時期に、最も熱中症が起こりやすいと言われています。
近年の研究では、暑熱環境への身体の適応は普段からトレーニングを行っている成人男性で約5日〜6日の間に現れると示されていますが、学生アスリートの場合、暑熱順化の期間は10日〜14日間とるべきであるとされています。
暑熱順化の期間中のガイドラインとしては以下の点が挙げられます。

(1)始めの5日間は、練習は1日1回にし、1日のトータルの練習時間は3時間以内におさめる。
(2)始めの5日間で2部練(午前と午後に練習)を行う場合は、どちらか片方は軽めの練習で1時間以内におさめる。また、練習間の休憩は3時間以上とる。
(3)6日目〜14日目は2部練を行っても良いが、2部練を行った翌日は必ず1部練もしくは休みにする。2部練を行う場合、練習間の休憩は3時間以上とる。
(4)2部練をする場合、どちらの練習も3時間を超えないようにし、1日のトータルの練習時間は5時間以内におさめる。
(5)暑熱期間中は熱中症の発生リスクが高まるので、アスレティックトレーナーまたは監督者の管理のもと練習を行う。

参考文献:
NATA「Preseason Heat-Acclimatization Guidelines for Secondary School Athletics」
NCAA「2014-2015 NCAA Sports Medicine Handbook」

2. 休養日を設定する
トレーニングと併せて考えたいのが休養です。「1日練習を休むと取り戻すのに3日かかる」などと言われていますが、むしろトレーニングによる心身の機能の向上は、その後の休養によって疲労が回復することで得られます。適切に休養日を設けることでオーバートレーニングやスポーツ傷害の予防にもつながり、ハードなトレーニングや練習を行った翌日は、強度を落とした軽めの練習または休みにするなど、疲労が蓄積しないようにしましょう。
また、6日間連続で練習をした場合は、次の日は必ず休みに設定し、連続で7日間練習をしないようにしましょう。
その他にも、日々の体重を管理し、基礎体重の減少が続くようであれば、決められた曜日以外での休養日の設定も考慮する必要があります。

長期休みのトレーニングを安全かつ効果的に行うためにも、綿密な計画を立て、トレーニングを行いましょう。また、水分補給や日々の体調にも気を配り、健康管理も十分に行いましょう!