日に日に暖かくなり、もうすぐ春の訪れです。数多くのスポーツがシーズンインを間近に控え、練習内容も少しずつ変化をしている時期ではないでしょうか。「移行期」に位置付けられるこの時期では、冬期トレーニングで培った基礎体力をそれぞれの競技の専門的な技術や戦術面につなげていかなければいけません。そこで、今回は移行期のトレーニング計画やトレーニングメニューのポイントなどを、陸上競技の短距離種目を例に紹介します。

移行期の位置付け

年間計画の中で移行期にあたる期間は、準備期で培った基礎体力を競技の専門的な技術に結びつけていくための重要なポイントとなります。試合期に向けてコンディションを高めていくためには、トレーニング量や強度などを計画的に変化させる必要があり、トレーニングの目的を明確にして取り組まなければなりません。
陸上競技の短距離種目では、冬期トレーニングで高めた基礎体力(筋力や柔軟性、瞬発力など)を最大スピードやスピード持久力に結びつけていくためにトレーニングを行う必要があります。
また、スピードを高める過程では、急激にスピードを上げることによって筋肉に急な刺激が入り、ケガを引き起こす可能性が高くなります。ただ漠然とスピードを上げるのではなく、動きの質を高めながら、スプリントトレーニングの本数やセット数などの量的コントロールも同時に行う必要があります。毎日の練習を単発で行うのではなく、段階を追って計画的にトレーニングメニューを作成しましょう。
※ここでいうスピードは走速度のことを指します。

試合期に向けた移行期のトレーニング計画

移行期でのトレーニング計画を立てるためには、まずはしっかりとした年間計画の作成が重要です。これは移行期のトレーニング計画に限ったことではなく、すべてのシーズンのトレーニングを計画する上で大切なことです。
移行期では、目標とする試合から逆算をして、その試合に向けてコンディションを高め、ベストな状態で走るための目標タイムを設定したり、トレーニングの調整を行います。しっかりとした年間計画がベースにあることで、それぞれのシーズンや月毎、週毎、さらには毎日のトレーニングの目的、内容が明確になります。

トレーニング内容

前述した通り、移行期では、より実践に近づけていくために、スピードを高めることを目的としたトレーニングへと移行していきます。そのためにも、トレーニング量の増加ではなく、最大スピードを高めるトレーニング(マーク走・加速走など)を行っていきます。移行期序盤では、ある程度トレーニングの量は高めに設定しておくことも大切です。

準備期から試合期のスピードトレーニングのイメージ

準備期(冬期) 移行期〜試合期
上り坂 フラット 下り坂
上り坂ダッシュなどを取り入れ、ベースとなる筋力や持久力を向上させる。 筋力が高まった状態で、フラットな地面を走り、正しいフォームや体の感覚を確かめる。 動作の速さや筋肉の反応速度を高めるためにオーバースピードトレーニングを行う。スピードが高まる中で、良い動きができるように意識する。

フィジカルトレーニング

ウェイトトレーニングや補強トレーニング、動き作りなどのフィジカルトレーニングは年間を通して必要です。しかし、常に同じ内容で実施するのではなく、シーズンに合わせた目的で行うことが重要です。ウェイトトレーニングの場合、準備期であれば、主に筋力強化を目的として、ゆっくりとした動作で重い負荷をかけて実施します。これが移行期になると、動作スピードを意識したパワー系のトレーニングやバウンディングなどのプライオメトリクス系のトレーニングへと変化させていきます。
※プライオメトリクス:ジャンプ系のトレーニングやメディシンボール投げなど、爆発的パワー(短時間で最大の力)発揮を改善するトレーニング方法。

アスリートにとって移行期は、試合をベストな状態で迎えるために極めて重要な時期です。トレーニング量をこなす準備期のトレーニングから専門的なトレーニングへと移行し、内容も充実していきます。強度や量、スピードの調整など、しっかりとした計画の下でトレーニングを実践しましょう。

2月 3月〜4月上旬 4月中旬〜
シーズン 準備期(後半) 移行期 試合期
目的 ・基礎体力、専門的体力の充実(競技に関連する体力要素の強化)
・トレーニング量や強度が高い練習を行う中でも、正しい動きを身につける
・移行期でのスピード練習に備えて、速い動きを行うなど筋肉に刺激を入れる
・準備期で強化した基礎体力を、最大スピードやスピード持久力に結びつける
・動きの速さや筋肉の反応速度を高める
・筋力、筋出力が高まった状態で、スプリント技術を高める
・移行期序盤のトレーニング量はある程度高めに設定し、徐々にスピードを高めていく
・試合期に近づくにつれて、トレーニング量を減らしてスピードを高める
・疲労が蓄積しないよう、量をこなすのではなく、質を高める
・試合が続くようであれば、最も重要な試合に照準を合わせてトレーニングを計画する

スピードとトレーニング量の変化