「一流のスポーツ選手は、体が柔らかくしなやかだ。」と言われるように、「柔軟性」は、競技パフォーマンスの向上に限らず、傷害予防や体力向上を語る上でも欠かせない要素です。多くの人が柔軟性を向上させることは重要だと思いながらも、練習やトレーニングに追われて、なかなか時間をかけて柔軟性の改善に取り組めていないのが現状ではないでしょうか。
柔軟性を改善する方法やその重要性については、多くの本や研究によって紹介されていますが、柔軟性の捉え方やトレーニング方法には様々な考え方があります。
皆さんの中にも、前屈や開脚ができず、自分は体が硬いと悩む人もいるかもしれませんが、体が柔らかければ柔らかいほど良いというわけでもありません。今回は、この「柔軟性」について理解を深め、日頃のトレーニングやコンディショニングに活かしてみましょう。

柔軟性とは

前述した通り、柔軟性の定義や概念については様々な捉え方がありますが、通例、柔軟性とは関節の可動域(関節が動く範囲)とその範囲での筋肉や腱の伸張性(伸びやすさ)のことを指し、「静的柔軟性」と「動的柔軟性」の2つに大別されます。

静的柔軟性
動きを伴わない柔軟性のことで、関節の動く範囲やその可動域を維持することを指します。一般的に体が柔らかいと言われるのは静的柔軟性のことで、長座体前屈や前後開脚などは静的柔軟性に分類されます。
静的柔軟性を高める方法としては、スタティックストレッチが挙げられます。(ディスパッチVol.107 2016年3月号参照)
動的柔軟性
動的柔軟性とは、動きのしなやかさや動かしやすさのことを指します。動きの中で求められる体の柔らかさで、関節の可動域の中でコントロールできる可動性や、筋肉の強さ(筋力やパワー)、動作のコーディネーションなども含まれます。
動的柔軟性を高める方法としてダイナミックフレキシビリティが挙げられます。(ディスパッチVol.93 2015年1月号参照)

体にはたくさんの関節や筋肉があり、関節の可動域は、骨の構造や関節周りの筋肉や腱によって左右されます。体を柔らかくする上では、無理やり関節を曲げたり、痛みを伴うような方法ではなく、筋肉を動かして、体が動く範囲を広げていくことが重要です。

柔軟性の重要性

柔軟性が高いということは、それだけ関節が動く範囲が広いということであり、様々なメリットが挙げられます。その反面、柔軟性が高ければ高いほど良いというわけではなく、それぞれの競技や目的にあった柔軟性を理解することが重要です。

傷害予防
柔軟性が高ければ、不意に起こる衝撃を吸収したり受け流すことができ、関節の可動域を超えて発生する捻挫や肉離れを防ぐなどの効果が期待できます。また、関節や筋肉が硬くなると必要な動きに支障をきたし、他の体の部位に負担がかかり、筋肉や腱が傷ついてしまう恐れがあります。

柔軟性と可動性
体は一つの部位が単独で動いているのではなく、全身が連動して動いています。選手の中には、体が柔らかくても動きがぎこちなかったり、怪我をしたりする選手もいるように、競技パフォーマンスや動作を考える上では、可動域の広さだけではなく、その可動域の中で体をスムーズに動かすための可動性を考える必要があります。

柔軟性と安定性
柔軟性や可動性と合わせて考えたいのが、関節の安定性です。柔軟性が高いことはメリットばかりではなく、関節の可動域が広すぎても怪我の原因となります。関節の可動域が広いということは、筋肉が伸びやすい状態にあり、関節が不安定になります。そうなると、転倒や選手同士の衝突などで、関節が正常の可動域を超え、怪我が発生する可能性が高まります。

スポーツに必要な柔軟性

競技パフォーマンスの向上に柔軟性は欠かせない要素ですが、競技特性やポジションに応じた柔軟性を身につけることが大切です。
スポーツ選手には、静的柔軟性と動的柔軟性のどちらも必要ですが、より速く、より大きく動くためには、動的柔軟性が必要だと考えられます。静的柔軟性を改善するスタティックストレッチと動的柔軟性を改善するダイナミックフレキシビリティでは、それぞれ目的や役割が異なります。多くの研究では、スタティックストレッチ直後のジャンプ力やスプリント力は低下する、または変わらないと示されています。
一方、ダイナミックフレキシビリティを行った後では、瞬発的な筋力やパワーが向上するという研究結果が出ており、競技パフォーマンスの向上には動的柔軟性の向上が欠かせません。しかし、短時間のスタティックストレッチ(30秒×1セット程度)を行った後に、しっかりとプリパレーションタイム(ダイナミックフレキシビリティなど)を行うことで、パフォーマンスの向上が見られたという研究もあることから、それぞれのストレッチの役割を理解して、正しく取り組むことが重要です。
柔軟性に影響を与える要因としては、骨格や筋肉の付き方だけではなく、疲労や過去の怪我、普段の姿勢なども挙げられます。柔軟性の有無に関しては、人と競ったり比べたりせず、体のバランスや動きのクセなど、自身のコンディションを把握し、改善に取り組みましょう。

参考文献:
・スポーツにおける柔軟性の概念に関する検討 2005年
・Effect of Differential Stretching Protocols During Warm-Ups on High-Speed Motor Capacities in Professional Soccer Players 2006年