スポーツに限らず、日常においても、私たちは自分の体を動かしながら生活しています。体を動かすためには「筋肉」が作用していることは何となく分かっていても、その特性や動くしくみまで意識したことはないのではないでしょうか。体を動かす根本とも言うべき「筋肉」について知り、私たちがスポーツを行うとき、筋肉では何が起きているのかを見ていきましょう。

筋肉の分類

「筋肉」は収縮することによって骨を引っ張り、関節を動かしています。通常、私たちがスポーツの場面において使う「筋肉」とは、関節を動かす「骨格筋こっかくきん」を指しています。これらは、自分の意志で動かすことができるという意味で「随意筋ずいいきん」と呼ばれます。これに対して、心臓を動かす「心筋しんきん」や、内臓や血管の壁を作る「平滑筋へいかつきん」は、自分の意思では動かすことができないので、「不随意筋ふずいいきん」と呼ばれます。これより先の文章で「筋肉」と使う時は自分の意志で動かすことのできる「骨格筋」として説明します。

筋線維のタイプ

筋肉は髪の毛ほどの細い筋線維が集まってできています。これらの筋線維は2つのタイプに分けることができます。

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速筋線維そっきんせんい(白筋)
瞬間的に大きな力を発揮することができる反面、疲れやすい性質を持っており、さらに「タイプⅡa」「タイプⅡb」の2つのタイプに分けられます。タイプⅡbは筋肉の収縮を最も早く行うことができる反面、持久力に乏しい筋線維です。タイプⅡaは筋肉の収縮はやや遅くなりますが、持久力のある筋線維です。速筋線維は、短距離走が得意な筋肉で、タイプⅡbが100m・200mの選手、タイプⅡaは400m・800mの選手に多い筋線維と言えます。

遅筋線維ちきんせんい(赤筋)
発揮できる力は大きくありませんが、持久力に優れ、疲労しにくい性質を持っています。長距離走が得意な筋肉で、赤い色素タンパク質を持つため、赤筋とも呼ばれます。
筋線維の特徴は、白身魚と赤身魚に例えるとわかりやすいでしょう。速筋線維(白筋)が多いヒラメやカレイなどの白身魚は、獲物を獲るとき瞬間的に素早い動きをします。遅筋線維(赤筋)が多いマグロやカツオなどの赤身魚は、遠洋を常に動き続ける持久力に優れています。

※白身と赤身の魚に、どちらの筋線維が多いかという例であり、白身魚を食べたから瞬発力が増したり、赤身魚を食べたから持久力が増すというわけではありません。

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筋線維のタイプ ②遅筋線維 ①速筋線維
タイプⅡa タイプⅡb
筋の収縮速度 ×
疲れにくさ ×

筋肉の中にあるそれぞれの筋線維の割合は、基本的にはほぼ半分ずつとなっていますが、人種や体の部位によってその割合は異なります。遺伝的にどちらかの筋線維の割合が平均より大きい人も存在します。
もちろん、トレーニングの内容によってその割合は変化します。速筋線維はトレーニングによって太くなるのに対して、遅筋線維はトレーニングをしても太さは変わらない特徴があります。瞬発的な(負荷の強い)トレーニングを行うと、速筋線維が太くなり、速筋線維の割合が大きくなるのに対して、持久的なトレーニングを行っても遅筋線維は太くなりません。速筋線維が細くなることで、結果として遅筋線維の割合が大きくなっているのです。

筋肉のエネルギー源

それでは、これらの筋肉を収縮させるエネルギーとはどのようなものでしょうか。そのエネルギー源となるのが、筋肉内に蓄えられたアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれる物質です。しかし、ATPは筋肉内にわずかな量しか蓄えることができず、スポーツを行うためには自分の体でATPを再び合成しなければなりません。このATPを作り出すしくみを「エネルギー供給機構」といい、発揮する力やシーンに応じて3つに分類されます。運動中は、場面によって3つのシステムがバランスを変えて筋肉を動かすエネルギーを生み出しています。

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有酸素系 (例:長距離走、ノルディックスキーなど)
筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲンと脂肪が、体内に取り入れた酸素を使って分解され、ATPを作りエネルギーとなります。大きな力、速いスピードは発揮できませんが、長時間運動を続けられます。
解糖系 (例:陸上400m・800m、自転車トラック競技、スピードスケートなど)
筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲン(炭水化物)が酸素を使わずに分解され、乳酸になる過程でATPが作られるしくみです。20秒から5分程度の運動において主要な役割を果たしますが、ATP-CPほど大きなエネルギーを瞬時に出すことはできません。
ATP-CP系 (例:陸上100m、ウエイトリフティング、投擲種目など)
クレアチンリン酸(CP)という物質を分解して得たエネルギーを使うしくみです。短時間で大きな力を発揮することができますが、数秒間で使い果たしてしまいます。

競技によって、使用する筋肉が異なることはもちろんですが、その競技に向いている筋線維の割合や、エネルギーを作り出すしくみも異なることを説明しました。専門とする競技に応じたトレーニングが重要であることは言うまでもありません。自身の競技を見直し、その特徴に合わせた効果的なトレーニングを行いましょう。