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■鍼治療とは

皆さんの中に、鍼(はり)治療に関心がある人もいるでしょう。実際、ケガからの回復過程や筋肉のコンディショニングに鍼を活用するアスリーツは多くいます。鍼を経験したことのない人は、「痛いのではないか」と心配するケースが多いようです。しかし、鍼は基本的に痛くないと思っていただいて良いと思います。ただし、ケガの状況によっては稀に、あえて痛みの出る手法を使うことがありますが、初心者ではそれはほとんどありません。

鍼は、よく活用されるものとして、刺してすぐ抜く「単差し」、刺したまま10〜15分程度置く「置鍼」、刺した鍼に低周波の電流を流して筋肉の血行促進をはかる「パルス鍼」などがあります。これらの手法が、患者の症状によって使い分けられます。また、同じ患者でも、症状の改善に従って鍼が使い分けられます。

鍼は、血行を促進したり、体の中のエネルギーの流れである「気」のバランスを整えたりすることで体に起きているアンバランスを整えます。これが、鍼を刺すという刺激で行われるのですから、刺激の量が重要になります。鍼治療では一回で症状が良くなる人もたくさんいます。しかし、基本的には劇的に症状を和らげるような治療はしません。体にムリなく、徐々に効果を出すように治療されます。

時々、鍼にマジックのような速効効果だけを求める方がいます。そして、そういう方はすぐに効果がでないので「自分には合わない」「効かない」と思ってしまうようです。しかしそれは勘違いで、鍼は継続的な利用が重要であることを忘れないでほしいと思います。

灸(きゅう)治療も、なにやら取っ付きにくいものと思われるでしょう。しかし灸は、痛みに対してとても高い効果を発揮します。灸にもさまざまな種類がありますが、通常の治療で使われる灸は「温灸」といって直接皮膚に艾(もぐさ)を乗せず、間接的に熱を伝える手法です。火を使うので多少は熱く感じますが、ヤケドをするような心配はまったくありません。

鍼灸は、痛みを取るという点で十分、皆さんのお役に立てるものです。しかし、その効果が思わぬ弊害を招くことがあります。痛みには、必ず根本的な原因があります。分かり易くいえば、骨が折れているとか、筋肉の線維が切れているとか、内臓が疾患を持っているとかの原因です。実際には、もっと細かい、分かり難い原因がたくさんあり、その最終的な結果として、痛みが現われてくるのです。鍼や灸は、一時的に痛みを解消するという点では、かなりの効果を発揮します。とりあえずの痛みは消えるわけです。しかし、根本的な原因まで完治させるわけではありません。そのため、一時的な痛みをしのぐだけで根本的な治療をせず、体をごまかしながら競技を続けてしまうという選手が出てきます。これは、鍼灸治療の誤った活用といえます。私たちクレーマージャパンスポーツ医科学センターでは、こうしたことがないように、鍼灸を取り入れる場合も、痛い部分の局所だけにこだわらず、全身を診ながら、その選手の競技の特性を考えて治療を進めていきます。必要とあれば、オステオパシー、マッサージなど鍼灸以外の手法も導入します。

もちろん、回復後の競技復帰に必要なリハビリテーショントレーニングも並行して行っていますし、復帰後の調整、強化のプログラムも充実しています。


■東洋医学とは

鍼灸の基礎になっている東洋医学では、西洋医学とは違った観点から体を見ていきます。東洋医学では、私たちの体は本来バランスがとれているもので、そのバランスが失われるとさまざまな病気になると考えます。そのバランスを示す概念は、二つあります。

陰・陽
男と女、光と陰、プラスとマイナス、裏と表など、この世の万物は対極にある二つの概念で支えられています。それは、体にも当てはまるとされます。そして、その両対極の力関係のバランスが崩れるとき、病気が起きるというわけです。

体の健康にかかわるバランスは「陰陽」と呼ばれています。「陰」とはマイナスに傾く現象、「陽」はプラスに傾く現象と考えていいでしょう。その陰陽の間を行き来しているのが「気」です。東洋医学では、「陰の気は下に向かい、極まれば上に昇る。陽の気は上に向かい、極まれば下に降りる」といわれています。

例えば、私たちは基本的には昼間は「陽」の気が盛んで、夜になると「陰」の気が盛んになります。しかし、こうしたバランスが崩れて、夜になっても「陽」の気が盛んな場合、不眠症になってしまいます。

虚と実
こうした陰陽のプラス・マイナスの状況を表わすのに、東洋医学では「虚・実」という概念を用います。

「虚」とはマイナス、あるいは低下している状態を表わし、「実」とはプラス、あるいは向上していることを表わします。一般的な考えでは、「実」がよく「虚」がよくない状態と考えがちですが、そうではありません。あくまでも両者のバランスがとれていることがいいのです。

例えば、頭痛があり肩がこっているのは上半身の「実」、腹痛があり、冷え症であるのは下半身の「虚」です。この場合、上半身の「実」を下げ、下半身の「虚」を上げるように気をコントロールするのが施術者の仕事です。

陰陽のバランスを虚・実という物差しで判断し、もとの健康な状態に整えること、それが東洋医学の基本です。この時、ポイントになるのが、いわゆるツボです。ツボにはそれぞれ、どの部分を虚にする、あるいは実にするという性格があります。そこに鍼、灸などで適切な刺激を与えるというわけです。

五行
五行とは、この世に存在するすべての物質をその性質によって五つに分類し、さらにそれらが互いに及ぼしあう影響関係をまとめたものです。

東洋医学では、万物はその性質によって木、火、土、金、水に大別できるとします。そしてまず、これらは互いに補いあう関係を持つとします。例えば、木は火を起こし、火は灰から土になり、土は固まって金(ゴールドに限らず鉱物全般というような概念)となり、金には水が寄ります。その水で木が育つという考えです。このように物質が補いあう関係を「相生」といいます。

一方、木は(道具となって)土を耕し、土は水をせき止め、水は火を消し、火は金を溶かし、金は(道具となって)木を切るという関係も成り立ちます。このように互いに反発しあう関係を「相克」といいます。

この五つの概念は、私たちの体にも当てはまるとされています。木は「肝」、火は「心」、土は「脾」、金は「肺」、水は「腎」とされています。

ここでは肝は肝臓に、腎は腎臓にかかわっていますが、東洋医学では実際には西洋医学の臓器とはちょっと違う範囲で考えています。そのことはここでは詳しく説明する余裕がないので、体の各部分がこの五つのどれかに当てはまると考えられていることだけを理解してください。

例えば「心」が強くなると(実すると)、その影響は図からわかるように「肺」に出ます。ですから、「肺」の調子が悪くなったとき東洋医学では肺そのものだけを見るのではなく、「心」の様子を見ます。そして、「心」が実になりすぎないような処置をすると同時に、「心」に影響を与える「肝」の働きを強めるのです。こうして、悪い部分だけをピンポイントで見ていくのではなく、体全体のバランスを整えるという視点で治療していくのが東洋医学の方法なのです。