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■風邪を理解して賢く克服する

順天堂大学浦安病院・医学博士
日本体育協会公認スポーツドクター 坂本静男

■いろいろな種類のビールス症状もさまざまだから”症候群”

みなさんは、カゼという言葉からどのような症状を思い浮かべるでしょう。クシャミ、鼻水、・鼻づまり、喉の痛み、セキ、発熱、頭痛、時には下痢・・・。実にいろいろな症状があるものです。
カゼはビールス、あるいは細菌によって人体に引き起こされる症状です。多くの場合はビールスが原因です。原因となるビールス、細菌にはさまざまな種類があり、その結果 、私たちの体に起きる症状も人によっていろいろです。どのビールスによってどんな症状が起きると限定できないことから、医学では「カゼ症候群」と呼ばれいます。
カゼのビールスに対しては、私たちの体はほとんど免疫をつくることができません。そのため、毎年のように何度もカゼをひいてしまうのです。昔は小学校などでインフルエンザの予肪接種を全員が義務づけられていました。しかし、最近では希望者だけになっています。それは、ビールスの形が実に多様で、薬がうまく作用する確立が少ないためです。


■一年中ビールスは体に入っている。元気なときはカゼにならない

ビールスはカゼをひきやすい冬に限らず、私たちの生活している空気中のいたるところに四六時中、漂っています。つまり、一年中、私たちはビールスを体内に吸い込んでいるのです。それでも年中カゼをひいていないのはなぜでしょう。
それは、もともとビールスは、体の待っている力に対して、さまざまな症状を起こすほどのパワーがないからです。体の中では常に、外から人ってくる異物を受け付けず、外に押し返す作用が働いています。ビールスの他にも私たちの周りには、いわゆるパイキンがうようよいるのですが、よほどのことがない限り病気にならないのは、そうしたものたちに体の力が勝っているからなのです。
しかし、一度、体力が弱って抵抗力のない状態になると、ビールスも力が発揮できるようになります。そこでさまざまなカゼの症状が出てくるのです。
ですから、まず大切なことは、ビールスに元気を与えるような状況、つまり体が弱った状況をつくらないということです。疲労、睡眠不足、栄養不良などがそういう状況をつくります。特にスポーツマンは、オーバ一トレーニングで消耗した状態をつくらないよう気をつけなければいけません。


■冬にカぜをひきやすいのは鼻・喉の粘膜の働きか弱まるから

疲労、睡眠不足などと同時に、乾燥も注意すべきポイントです。私たちは冬場によくカゼを引きますが、これは、寒いことよりも、乾燥した空気が大きな原因になるからです。私たちの鼻や喉には、粘膜があります。体のほとんどの部分は皮膚に覆われていますが、粘膜の部分は皮膚がなく、一枚コートを脱いだような状態になっています。そのため、粘膜は、直接体の外のものを体内に入れることができる場所となっています。
粘膜にはさまぎまな分泌物があって、害があるものが体内に入らないようにガードしています。私たちがクシャミをしたり、タンを吐いたりするのも、分泌物がからめ取った異物を体内に押し出す作用の一つなのです。
空気が乾燥すると、こうした粘膜の働きが鈍ります。吸い込まれる乾いた空気が、鼻や喉の粘膜の滑らかさを奪ってしまうのです。そうなると、ビールスは簡単に体内に進入できます。そして、さまざまな症状を起こすのです。
ですから、裏返せばセキやクシャミが頻繁に出るようになったら、それは粘膜がかなり攻撃されている状態と考えていいでしょう。それ以上悪化させないことが大切です。


■オカユよりもよく噛んで栄養を。熱がなければお風呂は効果的

カゼをひいたらまず安静。これは常識です。ムダな力をつかわず、体がビールスに打ち勝つために最善の状況をつくるのです。
栄養摂取も大切です。「体が弱っているからオカユで」と考えるより、できるだけ栄養のある食事を取りたいものです。ただし、カゼで消化の働きが落ちいてますし、場合によっては腸などにビールスが作用してお腹を痛めているということもあります。
そういう場合は、できるかぎり柔らか目に調理してもらい、いつもの何倍もよく噛んで食べるという方法がいいでしょう。オカユは食べやすいというだけで、栄養価からすると十分な食べ物ではありません。よく噛みさえすればオカユと似た状態になるので、できるだけ栄養のある食事をしてください。
熱が37度未満であれば、お風呂に入ってもいいでしょう。湯気の湿気が粘膜にいい影響を与えます。


■熱があれば風呂、厚着はダメ。冷やすことを第一に考える

熱があるときはお風呂に入ってはいけません。発熱で、体の中で体温を調節する中枢が異常事態に陥っています。そこに追い討ちをかけるように、体温が上昇するようなことをしては、よけいに体温コントロールが狂ってしまいます。また、発熱で細胞のエネルギーの消費が活発になっています。つまり、消耗の度合いが高まっているのです。そこで体温を上げては、ますます消耗します。
よく発熱すると「汗をかいて熱を出す」などといって、わざわざ厚着をして汗をかくスポーツマンがいます。これはとても危険なことです。汗は、蒸発することで熱を奪ってはくれますが、ダラダラかくような汗ではそういう効果 は望めません。体温中枢を狂わせ、体の消耗の度合いを高める以外の結果は望めません。
発熱したら、体を冷やすことが重要です。氷嚢、氷枕はもちろん、必要ならわきの下、股間など動脈が皮膚表面近くに存在している部分に、冷たいものを当てる処置が必要です。寒気がするからと、暖かい格好をするのは間違いです。寒気があるのは、自分の体温が高いから外の空気を冷たく感じるだけ。まず熱を下げるように努力しましょう。


■スポーツドクターに珍てもらう。漢方薬もドーピングの可能性

薬は、スポーツマンの場合できるだけ市販薬に頼らず、スポーツドクターに処方してもらいましょう。ドーピングの問題があるからです。
市販薬の中にはドーピングで禁止されている成分が入っているケースが多くあります。スポーツドクターなら、その辺りを熟知していますので、効き目があってドーピングに引っかからない成分の調合をしてくれるはずです。スポーツドクターではなく、一般の医者に診てもらう時は、その辺の事情を十分に話しましょう。
「漢方薬なら生薬だから大丈夫」という誤った解釈をしている選手もいます。化学的に成分を抜き出して調合した一般 薬と違い、漢方薬は多くの自然成分を複合させていますから、むしろドーピングにひっかかる成分が入りやすいのです。実際、興奮剤に分類される成分は多く含まれています。
「ドーピングが恐い」と、カゼをひいても一切薬を飲まず、じっと我慢している選手もいますが、これもナンセンスです。事情をよく理解しているスポーツドクターに相談すれば、適切な薬がもらえるはずです。


■3〜4日は安静にしておくこと。1週間までは50%で様子を見る

回復の目安は、熱が36度台に戻り、セキ、鼻水などの症状が和らいでいること。大抵は3〜4日で症状が和らぐはずです。もちろん、その間は安静で練習は中止です。
症状が柔らいでもすぐに通常の練習に復帰するのは危険です。ひきはじめから数えて1週間位は、通常の50%程度のレベルにとどめておくべきでしょう。自分の体とよく相談しながら練習内容を考えることとが必要です。
オリンピックなど大きな大会になると、真っ先にカゼをひくのが普段十分に鍛えられているはずの若い選手です。高齢で体力が弱いはずの役員が、そのカゼをうつされて後からひくという順番になります。それだけ選手はカゼをひきやすい状態、つまり心身の疲労状態にあるのです。これから冬にかけて、オーバートレーニングはカゼひきに直結しますので、十分に注意してください。