皆さんは「アライメント」という言葉をご存知ですか? 知らない方でも、「O脚、X脚、扁平足、猫背、猿腕」といった身体の形態上の特徴を表す言葉は聞いたことがあるかもしれません。
身体アライメントとは、骨と軟骨・関節の配列のことです。過去のディスパッチでは、矢状面しじょうめんからの(横から見た際の)頭〜脊柱〜骨盤までの弯曲や、前額面からの(正面もしくは背面から見た際の)両肩の肩甲骨から上腕骨の高さの違いにより障害が起こりやすいことを説明しました。(ディスパッチVol.85 2014年5月号ディスパッチVol.92 2014年12月号参照)
身体アライメントを整えることは、高いパフォーマンスを発揮し、障害を予防する上でとても重要です。今回は下肢の身体アライメントについて、代表的なものを取り上げ、それが原因として起こりやすい外傷や障害について説明していきます。

O脚・X脚

下肢の膝関節において、外方および内方へ弯曲している状態を指します。足を揃えて膝をまっすぐにして立った状態で、大きく膝の内側に隙間ができる状態が「O脚」、逆に足関節の内側に隙間ができる状態が「X脚」です。
O脚の場合は、膝が外側に引っ張られる強さが増すために、ランニングもしくは連続ジャンプ時など膝の屈伸運動を繰り返し行うことにより、腸脛靭帯ちょうけいじんたい大腿骨外側上顆だいたいこつがいそくじょうかとで過度の摩擦が生じ、腸脛靭帯炎が起こりやすくなります。また、O脚と合併して見られることが多いのが下腿部に起こる脛骨内反けいこつないはんです。これは前額面上で外側に弯曲しているもので、脛骨内反が強いと荷重負荷における骨へのストレスも強まり、脛骨過労性障害けいこつかろうせいしょうがい(シンスプリントや疲労骨折)などが起こりやすくなります。
逆にX脚では膝の外側に圧迫が強くかかり、半月板の損傷や膝蓋大腿関節症しつがいだいたいかんせつしょう(膝関節内の上部の擦れもしくは外側へのズレ)を生じやすくなります。また、膝の外反応力が高まると、逆に内側への伸張ストレスがかかりやすいため、膝の内側に集まる筋の付着部(がそく部)に炎症を生じやすくなります。さらにコンタクトスポーツでは相手のタックルを横から受けた際に、膝に外力が加わりやすいため、関節外傷を起こす可能性が高くなります。

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ただし、O脚・X脚を評価する際、乳児から幼児の成長段階において脚の形態は変わっていくことを知っておかなければなりません。最初はO脚ですが、起立荷重に伴って3歳ごろにX脚に移行し、加齢に伴って弯曲は自然に矯正されていきます。

回内足・回外足

「回内足」は立位において、踵骨しょうこつあるいは内踝うちくるぶしが内側に過度に傾いた足を指し、逆に「回外足」は外に傾いた足を指します。ランニング時には距骨下関節きょこつかかんせつは回外位で接地し、荷重に連れて回内位となり、再び回外位となって蹴り出しを行って、衝撃吸収と重心の移動に重要な役割を果たしています。
また、距骨下関節の回内に伴い、下腿の内旋や膝の外反が起こるため、下肢全体の捻れの動きを強めてしまい、膝への負担を増加させてしまうためにランニング障害を引き起こす原因となってしまいます。
競技特性として陸上競技の走り高跳びでは、踏み切りの際に足が進行方向に対して外側を向いた状態(トゥアウト)で踏み込み、加えて回内側傾向の要素があれば、足部の過度の回内(内側につぶれた状態)がさらに起こり、足関節の内側の傷害を起こす可能性が大きくなります。

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扁平足・凹足(ハイアーチ)

「扁平足」は足の縦アーチの低下が著しく、逆に「凹足」はアーチ全体が高すぎる足を指します。足裏のアーチは石橋のアーチ構造をイメージしてもらうと分かりやすいでしょう。ランニング時やジャンプにおける荷重時の衝撃の緩和や体重移動に重要な役割を果たしています。(ディスパッチvol.97 2015年5月号参照)
扁平足の場合は衝撃吸収が上手くできないために、足部の疲労骨折やアキレス腱炎、シンスプリント(疲労性骨膜炎)などのランニング障害を起こしやすくなります。また、骨の安定性に乏しいため、筋がそのバランスを取るために緊張をしなければならず、筋と腱はオーバーユース(運動しすぎ)になりやすい状態となります。
それに対して、凹足は足部の柔軟性に乏しく、接地面積も小さいために、衝撃を吸収するクッションの役割としては不充分であり、足底筋膜炎、足背部(足の甲側)痛が起こりやすくなります。

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同じ環境で同じトレーニングを行っても、ケガをする選手としない選手がいます。もちろん、筋力や柔軟性や脂肪量なども大きく関与しますが、身体の骨格構造上の効率が悪く、疲労や痛みを生じやすいタイプや、不可抗力による外傷を受けやすいタイプがいることを認識しておく必要があるでしょう。
上記に説明をしたように、アライメントの異常で外傷や障害が起こりやすくなることが分かります。しかし、骨・関節のアライメントが正常であっても、誤った動作によって関節の捻れや着地の衝撃が大きくなったり、運動効率が悪くなって傷害に繋がる可能性もあります。それを予防するためにも、静的な骨・関節のアライメントを評価するとともに、運動時の関節運動の関連を理解して、正しい動き、使い方をすることが大事になります。


参考文献:「測定と評価(現場に活かすコンディショニングの科学)」改定増補版 山本利春著