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第1回 メンタルトレーニングとスポーツ心理学

国立スポーツ科学センター 菅生 貴之

はじめまして、菅生(すごう)貴之と申します。このたび、スポーツのメンタルトレーニングのコーナーを担当させていただくことになりました。さて、まずは自己紹介をさせていただきます。
私は日本大学大学院でスポーツ心理学を学びました。大学院を修了後、「国立スポーツ科学センター」のスポーツ科学研究部に所属してアスリートを対象としたメンタルトレーニングを実践しています。また、日本スポーツ心理学会に所属して研究発表を行ったり、メンタルトレーニングの研修活動を行ったりしております。

このコーナーでは、メンタルトレーニングの技法の紹介やスポーツ心理学の基礎的なお話をしたいと思います。「メンタルトレーニングとは何だろう?」、「試合で最高のパフォーマンスを発揮する方法は?」、「毎日の練習の質をあげるには?」といった疑問に答えるために、少しずつ、ゆっくりと、出来るだけわかりやすく説明していきますので、よろしくお願いいたします。

1.「スポーツ心理学」で取り扱う課題

今回は第一回目なので、「スポーツ心理学とは?」「スポーツメンタルトレーニングとは?」といった、少し難しい話をします。でも、とても大事な話なので、しっかりと読んでくださいね。

スポーツ心理学はその名の通りスポーツを心の面から研究する学問分野のことです。その中には心というものを人の動きなどから探るために実験をしたり、スポーツの技術がうまくなっていく過程を明らかにしたり、またスポーツをする人達のものの考え方などを調査したりといったものが含まれていて、研究分野はいろいろあります。

スポーツ心理学といっても相手と競ってスポーツをする人だけではなく、たとえばレクリエーションとしてスポーツをする人がスポーツをすることで心地よさを感じることを研究している人も大勢います。
それらの研究に携わる人たちが集まって運営されている、日本のスポーツ心理学の中心となる組織が「日本スポーツ心理学会」です。日本スポーツ心理学会が発足して30年にもなります。毎年学会大会が開催され、機関紙も発行されているので、最新の研究成果を知りたい方、スポーツ心理学の研究に興味のある方は学会のホームページを見てみてください。
(日本スポーツ心理学会: http://www.jssp.jp/

2.競技力アップのためのスポーツ心理学と「メンタルトレーニング」

その中で、競技力を向上させるためのスポーツ心理学の研究も盛んに行われています。メンタルトレーニングに関する研究や実践も多く積み重ねられてきました。日本スポーツ心理学会ではメンタルトレーニング指導者に関する資格制度も立ち上げています。資格制度についてはまたの機会に詳しく紹介したいと思います。

アスリートの皆さんが競技力の向上を目指す上での心の面からのサポートの仕方については、いろいろな考え方や立場があってどれが正しい、とか間違っている、といった事はいえません。ですので、まずは私の扱う専門分野「競技力向上のためのスポーツメンタルトレーニング」についての説明から始めましょう。

3.スポーツメンタルトレーニングとは・・・?

このコーナーでは「スポーツメンタルトレーニング」を中心として話を進めていきながら、折にふれてそのほかのスポーツ心理学や心理的サポートの紹介をしていこうと思います。では、中心になるスポーツメンタルトレーニングとは何か、ということですが、この答えは簡単なようでとても難しいものです。そこでまずは教科書を確認しなければなりません。

スポーツ心理学会編集の「スポーツメンタルトレーニング教本」(大修館書店、2002年)には、以下のようにあります。(「 」内抜粋)
スポーツメンタルトレーニングとは

  • 「スポーツ選手や指導者が競技力向上のために必要な心理的スキルを獲得し、実際に活用できるようになることを目的とする、心理学やスポーツ心理学の理論と技法に基づく計画的で教育的な活動」

である。
また、教科書を参考にしながら、私なりの考え方を書くと

  • 心理的スキルの獲得・競技生活の問題点の克服・競技哲学の育成などを通した、「試合での実力発揮・競技力向上を目的とする全人的成長へ心理的な取り組み」

ということになります。

どちらも少し難しい文章ですね。共通している点は、競技力の向上のために、「心理的スキル」や試合場面で使える「テクニック」を手に入れて、どのような場面でも自分で自分をしっかりとコントロールできるようになることです。

スポーツメンタルトレーニングにはさまざまな技法があります。何かひとつの問題点(たとえば試合場面での緊張しすぎてしまう、など)に対してただひとつの技法だけを覚えればどうにかなるというものではありません。一つでも多くの技法をこのコーナーから手に入れて、最終的に大きな効果を生むように、まずはひとつずつしっかりとこなしていきましょう。

次回からは心理的な技法の説明を始めたいと思います。

 

第1回 メンタルトレーニングとスポーツ心理学
第2回 メンタルトレーニング事始め
第3回 自分を知ろう −その1 心理検査で自分を知る−
第4回 自分を知ろう −その2 「ゾーン」とは?−
第5回 自分を知ろう −その3 ピークパフォーマンスを振り返る(試合編)−
第6回 自分を知ろう −その4 ピークパフォーマンスを振り返る(練習編)−
第7回 自分を知ろう −その5 自分の「ゾーン」を知る−
第8回 見えない「こころ」にものさしを −その1 練習日誌−
第9回 見えない「こころ」にものさしを −その2 セルフ・モニタリング−


<参考文献>

  • スポーツ心理学概論
       不昧堂、1979年、日本スポーツ心理学会 編
  • スポーツメンタルトレーニング教本
       大修館書店、2002年、日本スポーツ心理学会 編

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数多くのスポーツ選手の心理的サポートを行い、 アトランタ・シドニー両オリンピック日本代表チームのメンタルトレーナーとして活躍してきた 白石豊先生の聴いて勉強するCD講座