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第5回 自分を知ろう −その3 ピークパフォーマンスを振り返る(試合編)−

国立スポーツ科学センター 菅生 貴之

1.試合場面での自分を知ろう

これまで2回に渡り、心理検査で自分を知る方法と、競技場面での理想的なこころの状態について話をしてきました。さあ、いよいよ皆さんが自分で自分を調べてみる番です。今回から3回続けて「ピークパフォーマンス分析」を行います。
まずは「試合」についての振り返りです。ピークパフォーマンスの試合を振り返ることで、その要因を探っていきます。勝利を単なる偶然や、よく練習したから、調子が良かったから、などというように捉えただけではピークパフォーマンス分析にはなりません。自分では気づいていなかった、心理的な要因が他にもあるかもしれません。それが今後の試合でのセルフコントロールに活かされていくのです。

2.一番成績がよかった試合を思い出してみよう

過去の自分がやってきた試合を思い出してみましょう。その中で一番成績がよく、パフォーマンスが発揮できた試合を思い出してみてください。具体的に一つ(もしくは二つか三つくらいでも構いません)の試合を思い出して、できるだけ詳しく振り返っていきます。
中には一試合通してはうまくいかなかったけれど、一回だけこれまでになく最高によかったなあ、という経験でも大丈夫です。大事なのは自分にとってのピークパフォーマンスを思い出すことです。
さて、その試合なり試技なりが想定できましたか?そうしたら、以下の項目について、体裁にこだわる必要はありませんから、自分でノートを用意してどんどん書き出してみましょう。

  1. その試合は自分にとってどのような位置づけでしたか?(目標の確認)
  2. 試合前にはどんなことを考え、何か自分自身に言い聞かせたり行動したりしましたか?
  3. 試合を行っているときにどのようなことを考え、行動しましたか?
  4. 体の状態はどうでしたか?

さて、どれくらい思い出すことができましたか?あまり思い出せない人もいるかもしれませんね。夢中でやっていたので思い出せないということもあるでしょう。
試合でピークパフォーマンスを達成した時というのは、あまり重要でない試合や特に何かがかかっている訳ではない試合だったということが多いようです。プレッシャーがかからない時にいいパフォーマンスを発揮できるのは皆さんも経験的に何となくわかるのではありませんか?したがって、その試合の位置づけ、目標を確かめておくのも大切なことです【質問(1)】。
また、ピークパフォーマンスが達成される時にはこころだけが整っていたわけではなく、体調がよかったり、技術の調子もよかったりするものです。そういったものが全てこころに影響しているのですが、そういったほかの要因も知っておく必要がありますね【質問(4)】。
さて、試合前にはとても緊張してくると思います。そして試合中には多くのピンチも訪れるはずです。でも、ピークパフォーマンスの時にはそういうときにも動じないで自分自身を励ましたりしているものです。試合前や試合中、自分に対して何か言い聞かせたり、何か行動をしたりしていませんでしたか?【質問(2)、(3)】。
例えばジャイアンツの桑田投手。マウンドの上でぶつぶつと何か言っているような場面を多く目にすると思います。あれは自分自身を励ましたり、ボールに話しかけたりしているそうです。皆さんも何かこのような方法を自然にやっていたりしませんか?そこからピークパフォーマンスの要因を探っていけそうですね。

第5回 自分を知ろう −その3 ピークパフォーマンスを振り返る(試合編)−

3.どうしても思いどおりに行かなかった試合がありますか?

さて、一方でどうやっても思いどおりに行かなかった試合についても振り返ります。でもここで一つ注意点。思いどおりに行かなかった試合について振り返ることは、ピークパフォーマンスと比較するという意味でもとても重要なことです。しかし、実際にやるのはシーズンオフの方がよいと思います。自分の悪いところに目を向けるのは難しい作業です。シーズンを戦っている最中に細かい短所まで洗い出すことが、必ずしも良い方向に向くとは限りません。思いどおりに行かなかった試合の振り返りは、シーズンオフの、少し心も落ち着いてじっくりとシーズンの反省ができるときに、しっかりと行いましょう。
思いどおりに行かなかった試合についても、具体的な試合を思い出してもらって、同様に以下の質問に答えていきます。

  1. その試合は自分にとってどのような位置づけでしたか?(目標の確認)
  2. 試合前にはどんなことを考え、どんな行動をしていましたか?
  3. 試合を行っているときにどのようなことを考え、行動していましたか?
  4. 体や技術的な状態はどうでしたか?

いかがですか?もしかしてピークパフォーマンスよりもうまく思い出せた方もいるかもしれませんね。逆に思い出せなかった方もいらっしゃるでしょうか?失敗をしたときというのは意外によく覚えている人が多いようです。負けた要因の分析は反省も含めてよくするからなのかもしれませんね。
また、よかったときと比べて余計な行動や、普段にはない行動を取っていたりするかもしれませんね。考え方もどうなっていたでしょうか?とてもネガティブであったりしませんか?
さて、それぞれについて振り返りを済ませたら、その違いについて(1)心理面、(2)技術面、(3)体力面、の3点から見つめてみましょう。どこがどう違っていたのでしょうか?特によかったときの要因に焦点をあてて、ピークパフォーマンスを導き出した要因を引き出していきましょう。

3.ピークパフォーマンス分析の意味

ピークパフォーマンスを振り返ることの意味はいろいろあります。こうして振り返ったものは例えばイメージトレーニングの材料となっていきます。それから、試合中のゲームプラン作りにも役立ちます。ルーティンの作成にも使えます。つまり、これから行っていくメンタルトレーニングプログラムを進めるためにも、ピークパフォーマンス分析はとても重要なのです。
振り返る際にはできるだけ具体的に試合を思い出してみましょう。もしもピークパフォーマンスをどうしても思い出せないときには、それを探していきましょう。これから経験していく試合をどのようにこなすかが大事です。その試合中の様々な「気づき」を高めましょう。「気づき」とは、試合中の自分の体やこころの動きをしっかりと観察しておくことです。
経験は何物にも変えがたいものです。無駄な試合、意味のない試合というのは、競技力の向上の上では一つもありませんよ。

 

第1回 メンタルトレーニングとスポーツ心理学
第2回 メンタルトレーニング事始め
第3回 自分を知ろう −その1 心理検査で自分を知る−
第4回 自分を知ろう −その2 「ゾーン」とは?−
第5回 自分を知ろう −その3 ピークパフォーマンスを振り返る(試合編)−
第6回 自分を知ろう −その4 ピークパフォーマンスを振り返る(練習編)−
第7回 自分を知ろう −その5 自分の「ゾーン」を知る−
第8回 見えない「こころ」にものさしを −その1 練習日誌−
第9回 見えない「こころ」にものさしを −その2 セルフ・モニタリング−


<参考文献>

  • スポーツメンタルトレーニング教本
       大修館書店、2002年、日本スポーツ心理学会 編
  • 今すぐ使える メンタルトレーニング 選手用
       ベースボールマガジン社、2002年、高妻容一